秋の月は日々戯れに

視線が定まったところでもう一度問いかけると、彼女は黙って自分の膝を見つめる。

返事を催促せずに待っていると、しばらくして彼女はようやく顔を上げた。


「この体になってから使ったことはありませんが、エアコンだってテレビだってつけられますから、多分電話も、使えるとは思います……」


更に何か続けようとした彼女の言葉を


「分かりました。使えるんですね」


彼は遮った。

それからあえて視線を外すようにして、意味もなくスマートフォンを弄りながらコーヒーを啜る。

彼女はそれでもまだ、何か言いたそうに彼を見つめていた。


「見ないんですか。終わっちゃいますよ」


スマートフォンの画面を見つめたまま言ってみるが、彼女はテレビの方を振り返りもしない。

何か言いたそうなその視線を受け続けるのに耐えられなくなって、彼は仕方なくスマートフォンから顔を上げた。

視線が合ってしばらくすると、彼女は真剣な面持ちでずいっと膝を進める。


「突然電話をつけようと思ったのは、わたしの為でしょうか」

「いや……別に」


画面に視線を落としてコーヒーを啜ったら、彼女がまたずいっと膝を進める。
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