秋の月は日々戯れに
何も言わない視線を感じながら、再び意味もなくスマートフォンを弄る。
しばらくそうしてから、そっと顔を上げたら
「おわっ!!?」
思ったよりも近くに、彼女の青白い顔があった。
心なしか、その目は輝いているように見える。
「わた……!」
「違います。断じて違います!」
彼女の言葉を遮って、彼が言う。
「自分の為です。あったら便利かなって思ったんですよ。悪いですか!」
最後は自分でもビックリするくらい声が大きくなって、逆にそれが言い訳じみて聞こえた。
彼女もそう思ったのか「そうですか」と言ってふふっと笑う。
「……何ですか」
「いえ、別に」
不機嫌そうな彼の隣に何食わぬ顔で移動してきた彼女は、触れ合った肩に寄り添うように頭を預ける。
「寒いです」
触れ合った場所が冷たくて、いつもの通り彼は抗議の声を上げる。
「エアコンの温度、上げておきますね」
彼女もいつも通りに返して、離れることはない。
ドラマはとっくに犯人が判明して、今はエンディングが流れていた。
「終わっちゃいましたね」
ちっとも残念じゃなさそうに、むしろどこか嬉しそうに彼女が呟く。
並んでエンディングを眺めながら、彼はコーヒーを啜り、彼女は静かにそれに寄り添う。