秋の月は日々戯れに
彼と彼女と受付嬢の話3
「いらっしゃいませ!さあどうぞ」
「あっ、うん。……お邪魔します」
「今日は頂き物のレモンティーがあるんですけど、コーヒーの方がいいですか?」
「えっ?ああ……そうだね、コーヒーがいいかな」
廊下を進んでくる足音に、受付嬢の表情がキュッと引き締まり、それを見ている彼の方も自然と緊張が高まっていく。
「ちなみに今日の夕飯は、チキンカツカレーなんですよ!こんなに大きなチキンカツが、とても安く買えたんです」
「へえーチキンカツか、いいね。あたしカレー好きなんだ」
ガチャっと音がしてドアが開くと、受付嬢が居住まいを正す。
最初に現れたのは彼女で、その後ろに同僚が続いた。
「座って待っていてください。盛り付けたら、もう完成なので」
そう言って彼女は、笑顔でテーブルの方を指差す。
同僚は、そのテーブルのところに座っている先客に目を止めて、固まった。
「こんばんは、さやかさん」
「……あっ、うん。……こんばんは」
受付嬢の勢いに流されるように挨拶を返しながらも、同僚の視線は気まずげに逸らされる。
そんな中、漂うカレーのいい匂いと、彼女の楽しげな鼻歌が、妙に場違いな空気を醸し出していた。
「じゃーん!特製のチキンカツカレーです」