秋の月は日々戯れに
食べるふりをして様子を伺う彼には気づかず、二人はほとんど同時に掬ったカレーを口に入れた。
次の瞬間、二人の表情が変わる。
「なにこれ!?うまっ!」
「本当だ……凄く美味しいです!お店屋さんのカレーみたい」
「ああ、分かる。駅前のカレー屋の味にちょっと似てる」
「確かに似ていますね!この、スパイスが効いているんだけど、ベースは甘い感じが」
さっきまでの気まずい空気が嘘のように、二人は楽しそうに語らいながらカレーを食べていく。
それを最初は笑顔で眺めていた彼女だが、途中からちょっぴり納得いかなそうな顔に変わって、彼の方をチラッと見やる。
「あなたのカレーじゃあ、こうはなりませんでしたね」
視線を感じた彼が先手を打つと、彼女は途端にムスっと膨れた。
「そんなの、やってみなければ分かりませんでしたよ。それに、ベースを作ったのはわたしですからね。わたしのカレーだって、充分場を和ませる可能性は秘めていたと思います」
彼が帰宅したときすでに出来上がっていた彼女手作りカレーは、言わずもがなな出来栄えだった。
そこで急遽彼が、スーパーに走って買ってきた香辛料を色々入れてみたところ、奇跡的に駅前のカレー屋によく似た味に仕上がり、こうして場を和ませることに一役かっている。