秋の月は日々戯れに
「……」
「……」
カレーを食べ終えた瞬間から、徐々に空気が元の重たいものへと戻っていく。
「……さっきまでの和やかさが嘘のようです」
彼女の呟きに内心で頷きながら、彼は食後のコーヒーを啜った。
本当に、ついさっきまでが嘘のよう。
もういっそ、嘘だったのだと言われても信じられる。
「先ほどのカレーのように、場を和ませる“何か”が必要ですね」
そう呟いた彼女は、チラッと隣の彼を見やる。
その視線を感じて、彼はカップから口を離してため息をついた。
「むちゃぶりはやめてください。大体、ここに二人を呼んだらいいと発案したのはあなたなんですから、あなたが何とかしてください」
「無理ですね」
「……即答かよ」
彼の不満げな呟きに構うことなく、彼女はやや得意げに胸を張って続ける。
「忘れているかもしれませんが、いえ、忘れてしまうくらいあなたの生活に馴染んでいるのでしょうが、わたしは幽霊です。つまり、この世の者ではないのです。この世で起きた問題は、現在この世に生きている方が解決しなくてどうするのですか?いくらわたしが頼りがいのある良き妻だったとしても」
「……色々と突っ込みたいことはありますが、第一になんで俺は説教されてるんですか。そもそもこんなことになったのは、あなたが原因じゃないですか」
「責任転嫁は良くないと思います」