秋の月は日々戯れに
「……ほんともう、離してもらえませんか。今度こそ生気が抜かれて、心臓が止まりそうです」
「旦那様にそんなことしないって言ったじゃないですか」
呟いた声に、彼女がむくれる。
そんなこと言ったって、本当に抜かれそうなのだからしょうがない。
「こうなったら、明日から毎日お弁当を届けて、あの受付の方に正妻の底力を見せつけてやります!」
なんだかとっても恐ろしい宣言が聞こえた。
「……勘弁してくださいよ。これから毎日、帰ってきてからこの大惨事のキッチンを片付けるなんてごめんです」
疲れたように呟いた言葉に、彼女がようやく抱きついていた手を離して立ち上がる。
「大丈夫です。次はもっと上手くやってみせます。コツはもう大方掴みましたから」
ポルターガイストにコツなんてあるのか――興味があるとは思われたくないから、何があっても絶対に聞いたりしないけれど、彼としては少し気になるところではあった。
彼女は得意げに胸元でガッツポーズを作ると、彼を見上げてニコッと笑う。