秋の月は日々戯れに
シレっとした彼女の顔と言葉が無性にイラっとして、何か言い返してやろうと彼が口を開くと「イチャイチャしてるところごめん、あっきー」と同僚の声が遮った。
「俺の名誉の為に言っとくけど、イチャイチャなんて断じてしてないからな」
「気にしないでください。彼は、いつも通り照れているだけです」
事実を捻じ曲げるなとばかりに彼女を睨むが、睨まれた方は彼の方を見てもいない。
「それで、どうしました?あっ、コーヒーのおかわりですか?」
「ううん、違うくて。……そろそろ、お暇しようかなーと」
「もう、お帰りの時間ですか?」と問いかけた彼女に、同僚はぎこちなく笑って頷く。
「今日は、ごちそうさま。カレー凄く美味しかった」
別れの気配を感じさせる同僚の言葉に、受付嬢が慌てたように顔を上げる。
何か言おうと口を開いて、でも咄嗟に言葉が出てこなくて、最終的に困ったような顔で助けを求めるように彼の方を見た。
「また来るね」
同僚が彼女だけを視界に映してそう言って、上着を羽織って鞄を掴む。