秋の月は日々戯れに


「最終的には、お重箱いっぱいにお弁当を作るのが目標なんです」


激しくやめて欲しい。

そんなものを持って会社には行けないし、届けられても悪目立ちして困ってしまう。


「わたしの旦那様、いえ、あなたの好きなおかずをいっぱい詰めますからね!きっと惚れ直してしまいますよ」


ふふっと幸せそうに笑った彼女は一体何を想像しているのか、恥ずかしそうに頬に手を当てて体をくねらせている。

幽霊だから相変わらず顔色は青白いけれど、きっと普通の女性なら、ここで頬を赤く染めているのだろうなと何となく思った。

惚れ直すことなんて万に一つもありえないし、そもそも惚れる可能性すらないけれど、彼女の幸せそうな笑顔を見ていると、言い返すだけ疲れる気がしてため息だけを零す。

一瞬顔を上げた彼女だったけれど、別段気にした様子もなく、お重に詰めるおかずは何がいいか、何が好きかと語りかける。

それに、曖昧な相槌や適当な返事をしながら、彼は初めにシンクにぶち込んでおいた洗い物に手をつけた。

傍から見れば、普通の幸せそうな夫婦かカップルに見えなくもないのだが、並んで立つ二人のうちの一人は、向こう側が見えるくらい――――足元が透けていた。
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