秋の月は日々戯れに
2
彼と彼女と同僚の話1
ムッスーと背後に効果音が聞こえそうなほど、彼女が激しくむくれている。
原因は分かっているけれど、別に謝る必要性は感じられないから、彼もまた黙ってテレビを見ながらコーヒーを啜る。
「むっすー!」
無視され続けることに耐えられなくなったのか、ついに自分で言い始めた。
それでもまだ、彼はテレビに視線を向けたままコーヒーを飲むばかりで、彼女の方を見ようともしない。
しびれを切らした彼女は唐突に立ち上がると、彼とテレビの間にその視線を遮るようにして立ちふさがった。
「わたしは怒っています。こんなにも怒っているのに、どうしてそんなに平然としていられるんですか!」
テレビを見ようとすると、丁度透けきっていないワンピースが視界を邪魔するので、仕方なく視線を逸らしてコーヒーを飲む。
「やましい事があるとすぐに目を逸らしますね」
別にやましいことなんてないし、怒られるいわれもないと言ってやりたいが、言った瞬間この面倒くさい幽霊が更にヒートアップすることは分かりきっているので、黙ってコーヒーの苦味に神経を集中させる。