秋の月は日々戯れに
「ちなみにわたしは、もう何をお願いするか決めています」
そう言った彼女は、いたずらっ子のような笑みを浮かべて彼を見上げる。
「知りたいですか?」
この言い方は“知りたい”と答えた瞬間“秘密です”返してくるパターンだとなんとなく読めてしまったから、彼は「別に」と興味なさそうに返しておく。
本当は、割りとどんな願いなのか知りたかった。
いつだって自分の好きなことを好きなようにしている彼女が、勝負を仕掛けてまで、叶えて欲しい願い――それは一体、どんな願いなのか。
想像しようとしてみても、今回ばかりは見当もつかない。
「あなたは、どんなお願いをしますか?どんなことでもいいんですよ。どんなことでも、一つだけ」
そう言って彼女は笑う。
せっかくなので、彼は真剣に考えてみた――彼女が叶えられそうな範囲の願いを。
「決まりました?」
「そんなにすぐ決まりませんし、決まってたとしても教えません」
ムスっと膨れた彼女だったが、緊迫した刑事の声がテレビから聞こえてくると、すぐさま表情が変わって、意識がそちらに移る。