秋の月は日々戯れに

その横顔をなんとなしにしばらく見つめてから、彼もテレビの方に視線を移した。

どんなことでも、一つだけ――そう言われて最初に浮かんできた願いは、胸の奥にそっと押し戻した。

何かもっと別のものはないか――そう思ってしまう自分がいて、そのことに少なからず動揺する。

自分のことは自分が一番よく分かっているはずなのに、今は、自分のことが自分でさえよく分からない。

どんなことでも、一つだけ――再び真剣に考え始めた彼の耳に、刑事達が捜査内容を元に犯人にあたりをつけているようなセリフが聞こえてくる。

けれど一番に名前があがった人物は、おそらく犯人ではない。

いつだったか、彼女がそう言っていたから。


――そういうあからさまに怪しいのは、結局のところ怪しいだけで、犯人ではないというのが刑事ドラマの鉄則ですよ。


刑事達が、あたりをつけた人物を追って走り出す。

それを彼女は、ワクワクした顔で見つめている。

画面に釘付けとはまさにこのこと。

彼はテレビからそっと視線を外して、そんな彼女をぼんやりと見つめていた。

どんなことでも、一つだけ――その言葉を、頭の中に思い浮かべながら。





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