秋の月は日々戯れに

じゅうじゅうと何かが焼ける音が聞こえ、薄らと目を開けると、キッチンスペースに立つエプロン姿の背中が見えた。

しばらくぼんやり見つめていたら、楽しそうな鼻歌も聞こえてきて、ようやく彼はゆらりと体を起こす。


「あっ、おはようございます」


それに気がついて振り返った彼女は、フライパンを手に笑みを浮かべた。


「朝ご飯、もうすぐできますよ」


焦げ目のついたウィンナーに、ふわふわのオムレツ、レタスとキュウリとプチトマトのサラダに、トースターではパンが焼けていて、鍋の中ではコーンスープがふつふつと音を立てている。

なんてことない日常の光景に、微かな違和感があった。

でもそれがなんなのか、よく分からない。

ただ何となく、違和感があった。


「どうかしましたか?」


テーブルに出来上がった朝食を並べていた彼女が、ぼんやりしている彼に向かって不思議そうに問いかける。

そんな彼女を、彼はまじまじと見つめた。


「……もう、しょうがないですね」
< 282 / 399 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop