秋の月は日々戯れに
じゅうじゅうと何かが焼ける音が聞こえ、薄らと目を開けると、キッチンスペースに立つエプロン姿の背中が見えた。
しばらくぼんやり見つめていたら、楽しそうな鼻歌も聞こえてきて、ようやく彼はゆらりと体を起こす。
「あっ、おはようございます」
それに気がついて振り返った彼女は、フライパンを手に笑みを浮かべた。
「朝ご飯、もうすぐできますよ」
焦げ目のついたウィンナーに、ふわふわのオムレツ、レタスとキュウリとプチトマトのサラダに、トースターではパンが焼けていて、鍋の中ではコーンスープがふつふつと音を立てている。
なんてことない日常の光景に、微かな違和感があった。
でもそれがなんなのか、よく分からない。
ただ何となく、違和感があった。
「どうかしましたか?」
テーブルに出来上がった朝食を並べていた彼女が、ぼんやりしている彼に向かって不思議そうに問いかける。
そんな彼女を、彼はまじまじと見つめた。
「……もう、しょうがないですね」