秋の月は日々戯れに

幸せそうなその笑顔を最後に、彼の視界は真っ暗に染まった――――。

目を開けると、最初に見慣れた天井が視界に飛び込んできた。

それで彼は、今まで見ていたものが全て夢だったのだと悟った。

そして次に、体を起こしてぐるりと部屋の中を見渡す。

なんの変哲もない、見慣れた自分の部屋。

シーンと静まり返っていて、自分以外の気配はない。

ベッドから足を下ろして、まずは洗面所に顔を洗いに行く。

スッキリしたところで、もう一度部屋の中をぐるりと見渡した。

それから今度は、部屋中の扉という扉を開けて回る。

収納、シンクの下、トイレ――――そして最後に、お風呂場。

どこにも、彼女の姿はなかった。

どこにも、彼女の痕跡がなかった。

何も残さず、何も言わず、まるで初めから存在していなかったかのように――彼女は静かに、そして突然に、彼の前から消えてしまった。

目が覚める前から、なんとなく嫌な予感はしていたのだ。

けれど、所詮は予感だから、そんなこと、実際には起こるはずないから――そう、思っていたのに。

部屋の中心にぼんやりと立ち尽くしたまま、彼はもう一度ゆっくりと、彼女の気配を探すように、部屋の中を見渡した。
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