秋の月は日々戯れに
5
彼と彼女の話1
彼女がいなくなってからというもの、よく夢を見るようになった。
ある時は麦わら帽子を被った彼女だったり、ある時は美味しそうに焼き芋を頬張る彼女だったり、ある時は暖かそうなコートに身を包む彼女だったり――。
とにかく、いつも夢に出てくるのは彼女で、決まってその顔には笑みが浮かんでいる。
今日もまた、夢に出てきたのは笑顔の彼女で、背景には満開の桜があった。
現実ではまだ冬真っ盛りなのに、夢の中では春を迎えてしまって、なんだかおかしな気分にさせられる。
ぼんやりとしたままゆらりと身を起こすと、布団からはみ出した上半身がひどく寒い。
窓の方に視線を向ければ、当然のように雪が降っていた。
ぶるりと震えた肩を両手でさすって、とりあえず枕元に置いたリモコンに手を伸ばし、エアコンを起動させる。
送風口から風が吹き出す音を聞きながら、もう一度布団の中に頭まですっぽりと潜り込んだ。
暗闇の中でじっとしていると、不意に、いたずらっぽくふふっと笑う彼女の顔が頭に浮かぶ。
それから、目覚めのキスをねだるように、目を閉じてみせる顔も。