秋の月は日々戯れに
そこまでしてしまうと、あとはお湯が沸くまですることもないので、作業台の縁に背中を預けるようにして振り返り、なんとなく部屋の中をぼうっと眺めた。
今朝もやっぱり、目覚めても彼女は部屋にいなくて、洗面所に行く前に寄ったトイレにも、ついでに覗いた風呂場にも、その姿はなかった。
そんな気はしていたけれど、改めて確認してしまうと途端にどっと気分が沈む。
「また積もるかな……これは」
気分が沈む理由を、天気のせいにしてしまおうかと思ったけれど、そうそう上手くはいかない。
分かっているけれど、認めたくはないのだ――。
やかんがカタカタ、ピーピー鳴り始めたので、彼は作業台の縁から背を離して体の向きを変える。
とぽとぽとカップにお湯を注ぐと、湯気にのってコーヒーの香りが立ち上った。
エアコンが稼働する音と、お隣から聞こえてくるシャワーの音なんかになんとなく耳を澄ましながら、彼は淹れたてのコーヒーをゆっくりと口に含んだ。
いつもと同じ、インスタントのコーヒー。
それがなんだか、最近は妙に味気なく感じる。
その理由もまた、分かっているけれど認めたくはなかった。
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