秋の月は日々戯れに
振り返ると、気まずげに視線を逸らした同僚が立っている。
「今更だけど……なんか、ごめんね。……色々と、迷惑かけて」
そう言って差し出された紙袋を、彼は不思議そうに受け取って中を覗いた。
「……俺に?」
「というか、あっきーに。迷惑かけたお詫びと、あと……お礼に」
袋の中には、彼も見覚えのあるデパートの包装紙で包まれた箱が入っていた。
「お中元とか用のコーヒーのセットみたいなの、あるでしょ。あれ」
「何がいいのか、分からなかったから。よく、使うものがいいかと思って」と呟いた同僚は、それからすぐ彼に背を向けた。
その背中が遠ざかってしまう前に、彼は袋から顔を上げて同僚を呼び止める。
「ありがとうな。……きっと、喜ぶよ」
振り返った同僚は、一度何かを考え込むように下を向くと、しばらくして体ごと彼の方に向き直った。
そして彼を押しのけるようにしてデスクの前に立つと、そこからファイルを二、三個奪うように取って腕に抱える。
「そのコーヒーはあっきーへのお礼だから、あんたには仕事で返す」
奪われたファイルを取り返すこともせず、彼はただ驚いたように呆然と同僚を見つめる。