秋の月は日々戯れに
いつもはさりげなく仕事を置いていく先輩が、今日は仕事の代わりに温かい缶コーヒーとエナジードリンク、それに大量のチョコレートを置いていく。
「……先輩、いつもこんなにチョコレート持って歩いてるんですか?」
彼の問いかけに、先輩は「疲れた時には甘いもの。常識だろ?」と笑って、またチョコレートの山を高くした。
せっかくなので、山の上から一つ取って包装紙を剥ぐと、コロンと飴玉のように丸く整形されたチョコレートから、甘い香りが漂う。
口に放れば、口内の温度でトロリと溶けて、舌の上にじんわりと、絶妙な甘さとほろ苦さが広がった。
「あの……先輩」
そこにおずおずとした様子で後輩が現れ、話しながらも忙しなく辺りの様子を伺う。
「あいつなら、今日はお前の従兄弟と昼休みが被るから、一緒にランチをしに行くんだと言って出て行ったぞ」
「えっ……愛美と?」
なんだか物凄く不安そうに顔を曇らせた後輩は、それから少しだけ拗ねたように唇を尖らせる。
「オレだって、さやかちゃんとご飯行きたいの我慢してるのに……」