秋の月は日々戯れに
ムスっと子供みたいに膨れた後輩だったが、何気なく視線を動かした先で彼の机の隅に積み上げられたチョコレートを見つけると、一瞬で表情を変え、驚いたように目を瞬かせた。
「……凄いっすね。先輩、実は甘党なんすか?」
後輩の視線の先に何があるかを察した彼は「全部貰い物だ」と言って苦笑する。
「良かったら少し持ってけ。疲れに効くらしいぞ、甘いものは」
少しと言いつつ、差し出された後輩の手に、山の上から一掴み分チョコレートをのせてやる。
その拍子に崩れた山が、雪崩のように彼の机上を埋め尽くした。
それを必死で元のように机の隅に積み上げていく彼を横目に、後輩は早速「いただきます」とチョコレートを口に入れる。
彼がようやくチョコレートの山を元に戻し終えて振り返ると、後輩は寂しそうに同僚のデスクを見つめていた。
声をかけるべきかどうか、迷いながらしばらく見ていると、視線に気がついて彼の方を向いた後輩と目が合った。
「そう言えば、ちゃんとお礼言ってなかったっすよね。先輩、この度は色々と、ありがとうございました」
深々と頭を下げた後輩が顔を上げると、そこには寂しげだが確かな笑みがあった。
「オレ、頑張りますから」