秋の月は日々戯れに
「ほら、サボりたがりの誰かさんの為に、今週末までに終わらせたぞ」
後ろから声をかけてファイルを差し出したら、くるりと椅子を回して振り返った同僚が、怪訝そうな顔でそれを受け取った。
「何それ。なんであたしがサボりたがり?」
ファイルをパラパラ捲って確認しながらの問いかけに、彼はこの間上司から言われたセリフをそのまま返した。
「何それ。あたしがそのサボりたがりだって言いたいの?」
ギロリと彼の方を向いた視線が思っていた以上に険しくて、ほんの少し怯んで後ずさる。
「まあ、否定はしない。あんたの場合は今更気をつけても遅いと思うけど。誰だってそうでしょ、なるべく楽して給料が欲しい。それは万人の望み」
身も蓋もない発言に混じってとんでもないセリフが聞こえたような気がしたが、そこに突っ込みを入れる前に同僚がうんと一つ満足げに頷いて続ける。
「それにしても、やっぱり出来る男は違うね。流石、完璧だわ。正直言って、絶対間に合わないと思ってた」
「おい」
「だって、他にも色々頼まれてたから」と笑う同僚は、ファイルを掲げて大仰に頭を下げてみせる。