秋の月は日々戯れに
彼と彼女の話2
「ここ違う、また間違えてる。もう貸して。あたしがやるから」
「先輩!美味しい定食屋見つけたんで、今日のお昼は一緒にそこ行きましょう」
「見ろ、この抹茶チョコマウンテン!お前がトイレに行ってる間に、積み上げといてやったぞ」
「いいか、お前は自分の仕事にだけ集中しろ。余計な仕事を押し付けてくる奴がいたら、おれが上司権限でしばき倒す」
「先輩さん、この入浴剤よかったら使ってみてください。体が凄く温まって、安眠効果もあるのでオススメです!」
同僚が仕事を手伝ってくれて、後輩が無理やりにでも昼食に連れ出してくれて、先輩が疲れに効くという甘いものを大量に分けてくれて、上司が何かと気にかけてくれて、受付嬢がオススメのアイテムをなんやかんやと持ってきてくれる。
彼女がいなくなってからの彼は、そんな風に周りに助けられながら日々を過ごしていた――――。
「……そろそろ、トイレットペーパーがなくなるな」
休日のおやつ時、ポツリと呟いた彼は、カップに残っていたコーヒーを一息に飲んで立ち上がる。
「今日は、土曜か……」
他には何が足りなくて、今日はどこで何が安かっただろうかと考えながら、Tシャツの上に上着を羽織り、下のジャージはそのままに、財布とスマートフォンをポケットに入れて玄関に向かう。
中腰で靴を履いて体を起こすと、不意に蘇ってくる光景があった。