秋の月は日々戯れに
「いやはや、誠に助かりました。これで、残業せずに済みそうです」
「それは良うございました」
実際他にも色々と仕事を頼まれていたから、今週末までという期限は正直厳しかった。
それでも間に合わせてしまうところが、出来る男と呼ばれる所以であって、彼の元へと余計な仕事が集まってくる原因でもある。
「それじゃあ、確かに渡したからな」
同僚の言う通り仕事が山積している彼は、このままでは自分が残業になってしまうので、早々とその場を離れようとする。
その背中に「あっ、ちょっと!」と声がかかり、彼は足を止めた。
「これ、代わりにやってくれたお礼にさ、奢るよ。今日あたり、仕事終わりに一杯どう?」
”これ”とファイルを掲げてみせたあとに、クイッとお酒を煽る仕草を見せる同僚。
週末ともなれば、一週間の溜まった疲れやストレスをアルコールで発散したい気持ちは当然湧いてくる。
彼に関して言えば、丁度仕事以外でも発散したいストレスが溜まっていたところだった。
時間にしてほんの数秒程の間を空けて、了承の意味を込めて頷くと、同僚はほんの少し驚いたように目を見開いた。
「これは驚き。絶対断られると思った」
「……なんでだよ」