秋の月は日々戯れに
「……なんで、ここにいるんだ」
彼の呆然とした呟きに、同僚は不機嫌そうに顔をしかめる。
「あたしがスーパーにいたらいけないとでも?」
「いや、そんなことはないけど……」
いけない訳ではもちろんないのだが、同僚の家からこの店までは遠すぎる。
入口でカゴを手にした瞬間後ろから肩を叩かれて振り返った彼は、そこに立っていた同僚の姿に驚きを隠せないでいた。
「今日は天気がいいから、ちょっとその辺散歩してたの。そしたら途中で買い物を思い出して、荷物にはなるけど忘れるよりはいいかなと思って寄ったんです」
「お前の散歩コース、広すぎないか……?ちょっとその辺って距離じゃないだろ」
「色々考え事しながら歩いてると、自然と距離が伸びるの」
「……そんなもんか?」
「インドア男には分かんないでしょうけど」
「おい、偏見で物を言うなよ」
なんやかんやと言い合いながら揃って自動ドアをくぐると、温かい空気に全身が包まれる。
「はあ……あったかい」と呟いた同僚の声を聞きながら、彼も寒さで強ばっていた肩から力を抜いた。