秋の月は日々戯れに

カニカマを見て唐突に思い出したらしい同僚に、彼も玉子焼きの話を返しながら歩いていると、同僚は味噌のコーナーでふと足を止めた。


「うわあ……いつもの味噌が今日はお安くない」


むむっと眉間に皺を寄せる同僚に、一緒に足を止めていた彼は、その視線より下の棚に目を向ける。


「他のじゃダメなのか?これとか安いぞ」


彼が指差した“今日の売り出し”と貼られた味噌を、吟味するように真剣な顔で眺めた同僚は、難しい顔のままで首を横に振った。


「やっぱり、いつもの味噌がいいから今日は買わない」

「そんなに違うか?」

「あたしは、気に入ったものをずっと使い続けるタイプなの。値段には変えられない安心感を求めてるの」


「へー」と気のない返事をして、彼は止めていた足を動かす。

味噌といえば、彼女もやたらと味噌汁にこだわっていたのを思い出す。

インスタントで充分だと言う彼に、嫌がらせじみた手を使ってまで味噌を買わせようとしたほどに――。

懐かしく思い返しながら肉や魚のコーナーに向かった彼の元に、同僚が小走りでやってきて追い越していく。
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