秋の月は日々戯れに
「ちょっと遅いけど、これくらいの時間はどこも空いてるからちょうどいいよね」
「……何の話だ」
状況が全く掴めていない彼に、同僚はわざとらしいほどにっこりと笑ってみせる。
「どうせお昼食べてないんでしょ?美味しいオムライスのお店、連れてってあげる」
「……はい?」
ぐいっと腕を引かれた勢いで足を踏み出すと、そのまま引っ張られる形で彼は歩き出す。
「ちょっと待て!なんだオムライスって」
「知らないの?ケチャップライスを卵で包んだ料理」
「そういうことじゃない!」
喚く彼を華麗にスルーしながら、同僚は足を止めることなくずんずんと進んでいく。
「なに、オムライス嫌いなの?」
「別に嫌いじゃないけど」
「じゃあいいじゃない。男ならグダグダ言わない」
そこまで言われると、なんだかこれ以上喚くのも大人気ない気がして、彼は引っ張られる形から体制を立て直して、自分の意思で歩く。
「なんで急にオムライスなんだよ」
彼が自分の意思で歩き始めたのを感じ取って、同僚は掴んでいた腕を離した。
「オムライスにしたのは特に理由なんてない。そう言えばこの辺に美味しいお店があったなって思い出しただけ。近くにあるなら、ラーメン屋だってファミレスだって別に構わなかった」