秋の月は日々戯れに
「そんなに腹減ってたのか?」と問いかけると、同僚は呆れたようなため息をついて彼を見やった。
「あんたね、自分じゃ気づいてないのかもしれないけど、日に日にゾンビ感が増してんのよ。今日だって、どうせ朝からロクなもの食べてないんでしょ」
そんなことはないと言いかけて、やっぱり何も言わずに口を閉じる。
同僚の指摘通り、今日の彼は朝からコーヒーしか飲んでいなかった。
おかげで、ほんの少しだけ胃が痛い。
「だから、あんたが本物のゾンビになる前に、オムライスをご馳走してあげるって言ってるの。丁度あたしもお昼まだだったし」
「……何も食べなかったくらいでゾンビにはならないだろ」
「鏡をよく見てから言いなさいよね。どう見ても一歩手前」
確かに朝洗面所で顔を洗うたび、鏡に映っている自分はどんどんやつれていっているような気はするが、だとしてもゾンビの一歩手前だと思ったことはない。
まだ、そこまでは酷くない。……はず。
「お前、あいつの浮気がどうしたこうしたって散々騒いだくせに、俺と二人でこうして歩いてていいのか」
「ああ、言われてみれば確かに。なるほど、たっくんもこういうなんてことない気持ちで、愛美ちゃんと一緒に出かけていたわけか」
「納得してる場合か」