秋の月は日々戯れに


「あたしは……この、特製デミグラスソースのオムライスで」

「俺は、王道オムライスを」


一礼して去って行く店員を見送った後で、同僚は水の入ったコップに手を伸ばす。


「結局、たっくんのオススメにしたんだ」

「店のオススメもそれだったからな。一番人気はデミグラスみたいだけど」


「なんたって“特製”だからね」となぜか同僚が得意げに笑って、引き寄せたコップに口を付ける。

水を飲んで一息ついたところで、同僚は改まったように「ところで」と切り出した。


「あっきーと、なにがあったの?」


予想していなかったその質問に、咄嗟に言葉を返す事ができなくて、二人の間に沈黙が生まれる。

その沈黙を誤魔化すように、彼はコップを引き寄せてぐいっと水を煽った。


「動揺するってことは、やっぱりなんかあったんだ」


カマをかけられたと気づいた時にはもう遅くて、彼はコップをテーブルに戻して、悔し紛れに同僚を睨みつける。


「最近仕事でミスばっかりしてるのはそういうわけか」

「それとこれとは関係ない」

「どうだかね」
< 319 / 399 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop