秋の月は日々戯れに
「あたしは……この、特製デミグラスソースのオムライスで」
「俺は、王道オムライスを」
一礼して去って行く店員を見送った後で、同僚は水の入ったコップに手を伸ばす。
「結局、たっくんのオススメにしたんだ」
「店のオススメもそれだったからな。一番人気はデミグラスみたいだけど」
「なんたって“特製”だからね」となぜか同僚が得意げに笑って、引き寄せたコップに口を付ける。
水を飲んで一息ついたところで、同僚は改まったように「ところで」と切り出した。
「あっきーと、なにがあったの?」
予想していなかったその質問に、咄嗟に言葉を返す事ができなくて、二人の間に沈黙が生まれる。
その沈黙を誤魔化すように、彼はコップを引き寄せてぐいっと水を煽った。
「動揺するってことは、やっぱりなんかあったんだ」
カマをかけられたと気づいた時にはもう遅くて、彼はコップをテーブルに戻して、悔し紛れに同僚を睨みつける。
「最近仕事でミスばっかりしてるのはそういうわけか」
「それとこれとは関係ない」
「どうだかね」