秋の月は日々戯れに
それを懐かしく思い返していると、いつの間にかスプーンを持つ手が止まっていた。
「どうかした?」
ぼんやりしている彼に気がついた同僚が、自分もスプーンを止めてオムライスから顔を上げる。
しばらくジッと食べかけのオムライスを眺めていた彼は、顔を上げて苦笑気味に笑った。
「いや、なんでもない。旨いなあと思ってさ」
同僚が、ため息混じりに「全く……」と呟く。
「美味しいなら、もっと美味しい顔して食べろ」
全くその通りなので、彼は素直に「悪い」と返して、またスプーンを動かす。
とっても美味しいオムライスは、お腹を充分に満たしてはくれるけれど、どうにも心までは満たしてくれそうにない。
それでも、そんな気持ちを同僚に気づかれないように、彼は何食わぬ顔で黙々とオムライスを平らげる。
「でもさ、良かったじゃん」
そんな彼に向かって、同僚が唐突に言い放った。
何が“良かった”のか分かりかねて顔を上げた彼に、同僚が続ける。
「さっきの話の続き。ほら、よく言うでしょ。大切なものは、失くしてからようやくその大切さに気づくって。でも、できることなら失くす前に気づきたいじゃない。だって、失くしてからじゃもう遅いんだから」