秋の月は日々戯れに
そう言って同僚は、彼から視線を外して、デミグラスソースたっぷりのオムライスをスプーンで掬う。
「だからさ、失くす前に気づけて、良かったね」
「まだ、愛想つかされたわけじゃないんでしょ?」と笑いながら問いかける同僚に、彼は何とも微妙な表情を浮かべる。
愛想をつかされたわけじゃないと言ったのは自分だけれど、それはなんだかまるで、彼女に愛想をつかされたら困るような言い草だ。
もういい加減認めてしまえ、と心の中で誰かが囁く声がした。
「お前は、どうなんだ?」
その囁きを無視するように、彼は同僚に問いかける。
「あたし?」
突然話を振られたことに驚いた様子で自分を指差した同僚は、しばらく考えるような素振りを見せた後で、持ち上げていたスプーンをそっと皿に置いた。
「もちろん、失くす前に気づきたいって思ったよ。そのために、今は距離を置いてるんだから」
言っている意味がよく分からなくて彼が首を傾げると、同僚は仕方がないやつだとでも言いたげに、小さくため息をついた。