秋の月は日々戯れに
「それで、距離を置いたら気づけたのか?」
皿に置いたスプーンをまた持ち上げた同僚は、彼の問いに「内緒」と答えて、美味しそうにオムライスを頬張る。
「でも、一緒にいるだけじゃ分からないことってあるでしょ。少し離れただけでも、今まで見えなかったものって見えるものだよ」
「あたしはそれが見たかった」と、同僚は言う。
「あたしのこんな我儘に、たっくんは何も聞かずに付き合ってくれてる。その上、ずっと待ってるって言ってくれたんだよ。それだけで、距離を置いた意味があった」
そう言って、同僚はどこか恥ずかしそうに笑った。
「まあ、距離を置いたら置いたで、元に戻るタイミングもきっかけも、中々掴み辛いんだけどね」
スプーンを置いた同僚が、テーブルの端に置いてある紙ナプキンを手に取って口元を拭う。
「あんたとあっきーに何があったのかは、聞いて欲しそうな顔してないから聞かない。でも、言いたくなったらいつでも言っていいよ。その時は聞いてあげるから」
そう言ってどこか得意げに笑った同僚は、唐突にメニューを手に取った。
しばらく眺めてから手を上げると、店員が笑顔でやって来る。