秋の月は日々戯れに


「食後に、ホットのカフェオレとコーヒーお願いします」


「かしこまりました」と一礼して去って行く店員を見送ってから、同僚はメニューをしまってもう一度スプーンを手に取る。

二つ頼んだ意味なんて聞かずとも分かるから


「追加で注文するなら前もってなにか言えよ」


彼はボソッと小声で不満を漏らす。


「ここ、コーヒーも美味しいってことを急に思い出したの。思い出したのが急だったんだからしょうがないよね。それとも、コーヒーじゃ不満?今ならまだ変えられるよ」


言いながら店員を呼ぼうとしている同僚に、彼はほんの少し慌てて「いや、コーヒーでいい」と返す。

そんな彼の姿に、同僚は口の端を持ち上げてニヤッと笑った。


「ここはあたしが奢ってあげるから、遠慮せずにいっぱいお食べ。そして、早く人間に戻れ」

「……ゾンビじゃないっての」


彼のボヤキになど構うことなく、同僚は更にデザートまで勧めてくる。

完全に面白がっていると分かっているから、それを丁重にお断りして、彼は目の前のオムライスに向き直った。

シンプルだけれど、本当に美味しいオムライス。

けれどその完璧なまでの美味しさは、彼が今求めているものとは、決定的に何かが違っていた。





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