秋の月は日々戯れに
顔を上げた彼は、その大きさに思わず、おお……と声を漏らす。
目線の高さが彼とほとんど同じその雪だるまは、何ともユーモラスな顔つきをしていた。
「……いい顔してるな」
子供が作ったにしては大きすぎる気はするが、顔は間違いなく子供の作品だ。
今日は久しぶりに天気のいい土曜、どこかの親子が一緒に作ったものかもしれない。
しばらくぼんやりと眺めていると、ふと彼女の顔が頭に浮かんだ。
この場にいたなら、きっと飛び上がって喜んでいただろう。
もしかしたら、変な対抗心を燃やして自分も作ると言い始めたかもしれない。
そう言えばいつだったか、夫婦雪だるまを作りたいと言っていた――。
色んなことを思い起こしながら、大きな雪だるまと見つめ合う。
サイズは大きいけれど不思議と威圧感はなくて、それよりも愛嬌が強い。
きっと、ユーモラスな顔つきのおかげだろう。
楽しそうに笑っている口元が、彼は特に好きだった。
けれど、いつまでもそこに立ち尽くしているわけにもいかないから、彼はようやく止めていた足を動かす。
どこかでもう一度振り返ろうかとも思ったが、そこでまた立ち止まってしまったら、歩き出すタイミングが掴めなくなりそうで、結局彼は振り返らずにアパートの階段を上っていく。
辿り着いた二階の部屋、鍵を開けて中に入ると、癖になった「ただいま」が今日もまた虚しく玄関に響く。