秋の月は日々戯れに

気にせず靴を脱いで廊下を抜けると、もう一つドアを開けて真っ暗な部屋に足を踏み入れた。

壁に手を這わせて電気をつけると、ドアを閉めてすぐさまエアコンのスイッチを入れる。

スーパーの袋を握りしめていた方の手が、持ち手が食い込んで赤くなっている。

それに、とても冷たかった。

水を入れたやかんを火にかけ、買ったものをしまいながら、両手をこすり合わせて部屋が温まるのを待つ。


「あっ、そうだ……」


カップにコーヒーの粉を入れているところで、ふと思い立ってテレビをつける。

ここ最近で聞きなれた、刑事ドラマのテーマソングが流れた。

沸いたお湯をカップに注ぎながら、チラッとテレビの方に視線を送る。

一番テレビが見やすい彼女の定位置、今日もそこはポッカリと空いている。

真剣に画面を見つめる青白い背中はなくて、時折自慢げに自分の推理を披露する声も聞こえない。

特に好きでも嫌いでもない刑事ドラマを、一人でぼんやりと眺める。

立ち上る湯気にのって、コーヒーの香りが部屋中に広がっていく。

そっと持ち手に指を差し込むと、カップに触れた部分がジンと僅かに痺れた。

二、三度息を吹きかけて、彼はインスタントのコーヒーを口に運ぶ。

ただでさえ眠れないのに、なぜカフェインを摂取してしまったのかと、後悔するのはもう少しあと――。
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