秋の月は日々戯れに

彼と彼女の話3



「先輩!肉じゃが好きっすか?」


いつもより早めに出社した彼が、喫煙所の前にある自動販売機でコーヒーを買っていると、どこからともなく後輩が現れた。

開口一番投げかけられたその質問に、彼は訝しげに首を傾げる。


「何だ、急に。肉じゃが?」


こくこくと頷いた後輩は、もう一度「好きっすか?」と尋ねる。

それに答えなければ話は進まないようだったので、彼はひとまず「まあ、ほどほどに」と答える。

途端に、後輩の瞳が輝いた。


「じゃあ、是非オレの作った肉じゃがを味見してください!」


興奮気味にそう言った後輩に、彼は意味が分からず「……はい?」と返す。


「オレ、今まで料理とかあんまりしたことなくて、せいぜいがインスタントラーメンを作るくらいだったんすけど。この機会に、料理男子になろうかなと!」

「インスタントラーメンしか作ったことない奴が、なんで急に肉じゃがなんだ」


心意気は大いに結構だが、メニューのチョイスが何とも言えない。

ほとんど料理が初心者のような状態ならば、もっと簡単なものがあっただろうと思う。
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