秋の月は日々戯れに

先輩である自分に手料理を食べさせるよりは、ずっとハードルが低いと思っての進言だったのだが、途端に後輩は「それが、聞いてくださいよ!」と愚痴る体制に入る。


「同期の奴らも友達も、皆して“美味しく作れるようになったら食べてやる”とか言うんすよ!?酷くないっすか!」


どうやら、既に頼んで断られたあとだったらしい。

それでもあと一人、自分よりも適任そうな人物が、彼の中には浮かび上がる。


「じゃあ、お前の従兄弟はどうなんだ?」

「愛美はダメっす!」


即答だった。


「女性で最初に食べてもらうのは、さやかちゃんって決めてるんす!なので例え味見でも、愛美はダメっす」


後輩的に、そこはどうしても譲れないようだった。

頼れる従兄弟がダメ、同期も友達もダメとなると、自分に回ってくるわけなのか――納得できるような、できないような。

彼には、どうにも突然の急カーブに思えてならない。


「それに、先輩は料理上手だって聞いたんで」


ここに来て知らない情報が飛び出した。


「……誰が、なんだって?」


思わず聞き返した彼に、後輩はもう一度同じセリフを笑顔で繰り返す。


「誰だよ、そんなこと言いふらしてる奴は……」


料理自体は苦手なわけではないので必要に迫られればやるが、その程度のものだ。
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