秋の月は日々戯れに

第一、一人暮らしの頃は作るのが面倒くさいのでほとんどをコンビニ弁当で済ませていたし、彼女と出会ってからは彼女が率先して作っていたので、彼が料理を作る機会なんてなかった。

それなのに、どこの誰がそんな安易に“料理上手”などとのたまっているのかと思ったら


「さやかちゃんがそう言ってたって、愛美から聞いたんすよ」


その言葉で納得した。

確かに同僚には、必要に迫られて料理を振舞ったことがある。

いかにも有り合わせで作りました的な、卵と玉葱の丼だったが。


「……大したものは作ってないはずだぞ。それで料理上手はおこがましいだろ」

「でも愛美情報だと、すっごく美味しかったって言ってたそうっすよ。玉子とろとろで、出汁を吸った玉葱が甘じょっぱくて、天才的な丼だったって」


実際に食べた時は「えー、鶏肉入ってないの?親子じゃないのー?」などと文句を垂れていたのに、まさかそんなに気に入っていただなんて思いもしなかった。


「それで先輩、せっかくだから温かいのを食べてもらいたいんすけど、いつなら空いてますか?」

「……ん?」


目をキラキラさせて問いかけてくる後輩に、思わず彼は首を傾げる。


「ここに持ってきてるんじゃないのか?味見ならそれで充分だろ」

「そんな!先輩に冷たい肉じゃがなんて食べさせられませんよ」
< 332 / 399 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop