秋の月は日々戯れに

とんでもない!と言わんばかりの後輩。


「だから、是非家に来てください!オレはいつでも大丈夫なので、先輩がお暇な日に」


後輩は、どうやら約束を取り付けるまで動く気はないらしく、彼をジッと見つめて答えを待っている。

冷たくてもいいから明日持って来い、と本当は言いたいところだが、後輩がとんでもなくワクワクした顔をしているから、とてもそんなことを言える雰囲気ではない。

一度引き受けた以上、今更断るわけにもいかないので、彼は仕方なくいつがいいかと考える。

特に予定はないので次の休みにと初めは思ったが、味見程度で休みの日にわざわざ出向くのは正直面倒くさい。

しばらく考えた末に彼は


「本当にいつでもいいのか?」


後輩は即座に、もちろん!と頷き返す。


「じゃあ今日の仕事終わり。帰る前に寄って味見する」


突然過ぎて嫌がるかとも思ったが、むしろ後輩は嬉しそうに頷いた。


「なんだかんだ言って、結局はぐらかされたらどうしようかと思いました!」

「お前……俺をどんな奴だと思ってるんだ」


「すみません」と謝った後輩は、それからも喜びが抑えきれないのか、仕事が始まってもずっと嬉しそうに笑っていて、終いには上司に「気持ち悪いからやめろ!」と注意されていた。






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