秋の月は日々戯れに
「天気予報見ました?今日の夜中から雪が降るらしいんすけど、それ明後日まで止まないんですって。これはまた積もりますね」
空を見上げながら呟いた後輩に、彼も釣られるようにして顔を上げる。
仕事終わり、後輩の家へと向かう道中、二人揃って見上げた空は、どんよりと重たい色をしていた。
「オレ、雪道歩くの苦手なんすよね。積もってるところは足が埋まって歩き辛いし、かと言って雪がないところは凍ってたりするじゃないっすか。もう、どこ歩いていいやら」
「お前、たまに会社の前で滑って転んでるらしいもんな」
見上げていた視線を下ろしながら何気なく口にした言葉に、後輩が慌てたように彼の方を向く。
「なんで先輩知ってるんすか!?」
情報の発信元をさらりと告げると、後輩は宙を睨み据え「おのれ愛美……」と恨めしそうに呟く。
「お前の従兄弟は、ほんとになんでも知ってるよな。いや知ってるというよりは、よく見てよく聞いてるって感じか」
「あいつ、昔からそうなんすよ。聞き上手っていうか、話を引き出すのが上手いんすよね。あと、どこで見てるんだよってくらいほんとよく見てますし……。たまに、知りすぎてて恐怖を感じます」