秋の月は日々戯れに
「……いいわけあるか。なんでお前の惚気け話を永遠聞かされなきゃいけないんだ」
「だってオレ、そんなつもりなかったのに流れでつい愛美のこと褒め称えちゃって、なんか気持ち悪いんすもん!」
「称えてはなかったけどな」
「お願いしますよ先輩!」と縋り付いてくる後輩を、彼は「絶対に嫌だ」とすげなく躱す。
「まずはですね、なんといっても綺麗っすよね。顔のパーツが整っているというか、全体的にバランスがいいというか!」
「おいこら、俺は言ってもいいなんて許可してないぞ」
「そんなこと言わないで聞いてくださいよー」とまたも縋りついてくる後輩を避け、無防備な額に手刀をお見舞いする。
「いった!先輩、痛いっすよ」
「煩い。いいから黙って歩け。これはどっちだ、右か?左か?」
「えっと…………右っすね」
「お前、なんで今迷った」
テヘッとかわいこぶって見せる後輩にもう一発手刀をお見舞いして、彼は先に立って歩き出す。
後輩の家に続く道は、住宅街の中にある。
それも、中々立派な住宅ばかりが立ち並ぶ中に。
「お前、まさか高層マンションに住んでるとか言わないよな」
「そんなまさか。確かにこの辺は高級な雰囲気を醸し出す家が多いっすけど、オレなんかはまだまだ高層に住めるような身分じゃないんで」
追いついてきた後輩が、斜め後ろから答える。