秋の月は日々戯れに
「お前……実はいいとこのお坊ちゃんなのか?」
玄関を入って廊下を進み、広々としたリビングダイニングに足を踏み入れながら、彼はやや気圧されたように問いかける。
「初めてさやかちゃんが家に来た時も同じこと言ってましたけど、うちはそんなことないっすよ」
「適当に座っててください」と言って、後輩はキッチンに向かい、食器棚からカップを二つ取り出す。
ひとまず彼は、キョロキョロと忙しなく動かしていた視線をソファーに留めると、近づいて行って恐る恐る腰掛けた。
柔らかすぎず硬すぎず、何とも座り心地がいい。
けれど、それがまた怖い。
とんでもなくお高いソファーな気がして怖い。
絶対に値段は聞かないことに決めて、彼はキッチンにいる後輩を見やる。
後輩は、コーヒーサーバーの前に立っていた。
「夕飯にはまだちょっと早いっすよね……。先輩、何します?ゲームでもしますか?」
「……なんでお前とゲームしなきゃいけないんだよ。別に夕飯として食べなくたって、味見でいいんだろ。だったら今すぐにだって」
「えー!そんな寂しいこと言わずに、せっかくなんだからゆっくりして行ってくださいよ。テレビゲームもボードゲームもありますから!」