秋の月は日々戯れに
「あたしより仕事山積み男が、なんで先に終わってんの?そんで、なんでそんな余裕ぶった顔で待ちぼうけてんの?」
思った以上に疲れきった顔の同僚に、彼は開きかけた口を閉じて、ついでに言おうとしていた言葉も飲み込んで「努力の賜物」と答えるに留めた。
実際残業にならないように努力したのは事実なのだが、ここで間違っても仕事が早いからなどと言ったらあとが怖い。
それに待ちぼうけていたのは事実でも、余裕ぶった顔をしていた覚えはないのだが、機嫌を損ねたら奢ってくれるという約束がチャラになるばかりか、逆に奢らされる危険性も出てくるので、余計なことは言わないに限る。
「まあいいや、どこ行こっか。どっかいい店知ってる?自分で誘っておいて申し訳ないけど、あたし連れて行ってもらうばっかりで、自分じゃあんまり知らないんだよね」
申し訳ないと言いながらも、申し訳なさなど微塵も感じさせず、あははと軽やかに笑う同僚。
この様子だと、これ以上仕事の話題を引っ張ることはなさそうで一安心する。
さっぱりしたその性格に感謝だ。