秋の月は日々戯れに

後輩は、湯気の立つカップを二つ持って、慌てたようにキッチンから出てくる。


「あっ、ミルクと砂糖、いりますか?」

「いや、いい」


差し出されたカップを受け取ると、後輩は一人分間を空けてソファーに腰掛ける。


「この間、さやかちゃんとオムライスの店行ったんすよね。どうでした?」


問いかける後輩にチラッと視線を送ると、その横顔はいたって平然としていた。

羨ましいという気持ちはもちろんあるのだろうが、それを隠せる余裕はあるようで、だから彼も特に気負うことなく答える。


「お前のオススメを頼んでみた。旨かったよ」


途端に、後輩の顔がぱあっと華やぐ。


「先輩、オレのオススメ頼んでくれたんすか!やっぱオムライスは、王道が一番っすよね。特にあの店は、ケチャップも旨いっすから」


上機嫌な後輩は更に続ける。


「デミグラスも美味しいって、さやかちゃんはいつも勧めてくれるんすけど、やっぱりあの店に行ったら王道が食べたくなるんすよね。でも実はオレ、トマトクリームソースのオムライスってのも気になってて、毎回迷うんすよ。迷うんすけど、結局は――」
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