秋の月は日々戯れに
語り続ける後輩の声を聞きながら、彼はカップに口を付ける。
ふわりと立ち上る湯気と一緒に、まずはコーヒーの香りを吸い込んで、それから中身を口に含む。
いつも家で飲んでいるものよりも美味しく感じるのは、サーバーで淹れたからなのか、それとも豆からして違うのか、ぼんやりと考えながら彼はコーヒーを味わう。
「……旨いな」
無意識にポツリと呟いたら、聞こえたらしい後輩が、オムライスの話をやめて嬉しそうに笑った。
「良かったっす」
本当に嬉しそうに笑って、後輩は思い出したように自分もカップに口を付ける。
「……なんか悔しいっすけど、確かに旨いっすね」
「なんで悔しがるんだよ」
呆れたように笑って彼がもう一口啜ると、後輩はカップから顔を上げて、彼の方を見やった。
「このコーヒーを教えてくれたの、愛美なんすよ。自分で飲むならスーパーの特売インスタントで充分だけど、来客用に少しいいものも常備しておいたほうがいいって。……あいつのこの、絶対に外さないところが無性に悔しいっす」