秋の月は日々戯れに
ぼんやりと天気予報を眺めていると、ようやく風呂が沸いた。
暇を持て余していた彼は、すぐさまテレビを消して立ち上がる。
脱衣所で服を脱いで浴室のドアを開けた彼は、シャワーで体を軽く流し、早速湯船に身を沈めた。
気持ちが急いたせいでお湯の温度は少しぬるめだったけれど、ゆっくりと長く浸かるには丁度いい。
狭い浴槽に限界まで体を沈めて、何とか肩まで浸かると、浴槽の縁に頭を預けて天井を見上げる。
ゆらゆらと立ち上る湯気をぼんやり見つめていると、天井から落ちてきた水滴が水面で弾けて音を響かせ、小さく波紋が広がった。
「……離れてみて初めて気がつく、か」
いつだったか同僚が言っていた言葉を、不意に思い出して呟いてみる。
特に何かを思って口にしたわけではない。
なんとなく頭に浮かんだから、言ってみただけ。
それが、浴室にぼわんと反響する。
確かに、離れてみて気がついたことはあった。
と言うよりは、気がついてはいけないものに気がついてしまった。
だって彼女は、幽霊だから。