秋の月は日々戯れに
どんなに頑張っても、その根本は変えられないから。
だから、気がついてはいけなかった。
「なのに、あの人は……」
妻だと名乗る彼女に、あなたは妻じゃないと言い返して、お決まりのやりとりを繰り返して、変わらない日常を過ごしていられれば、どんなに良かったか。
そうであればきっと、こんなに思い煩うことはなかった。
ここ最近どうにも調子が出なくて、上司にも先輩にも同僚にも、果ては後輩や受付嬢にまで心配をかけるこの事態は、彼にとって不本意以外のなにものでもない。
「ほんと、自分勝手だよな……」
どうしようもなく自分勝手な彼女は、いつだって彼の都合などお構いなし。
出会った時からいなくなる瞬間まで、ずっと――。
「なんであの人は……幽霊なんだろうな」
結局いつも行き着く先は同じで、いつだって悩みの原因はその根本にあって、どうにもならない問題に、彼は天井に向かって深く息を吐く。
ゆらゆらと立ち上っていた湯気が、吐きだした息に押されて散っていく。
それを彼は、ただぼんやりと見つめていた。
探すべきか探さざるべきか、いつかと同じことを、ぐるぐると考えながら――。