秋の月は日々戯れに
彼と彼女の話4
「先輩さん、先輩さん!おでん、お好きですか?」
おはようございます、の挨拶に彼が返す隙も与えず、受付嬢はすぐさまどこかで聞いたようなセリフを口にした。
「おでん?まあ、嫌いではないけど」
嫌いではないが、特別好きだというわけでもない、何とも答えづらいラインにいるおでん。
けれど受付嬢はその答えで満足したのか、なるほどなるほどと頷きながら、胸ポケットから小さなメモ帳を取り出した。
何を書いているのか気になるところだが、手元を覗き込むのは流石に失礼なので、グッと堪えて受付嬢がメモ帳をまた胸ポケットにしまうのを見届ける。
一連の作業を終えて顔を上げた受付嬢は、彼を見つめてニコッと笑った。
「ありがとうございます。先輩さんのご意見、参考にさせていただきますね」
おでんが好きか嫌いかという意見を、なんの参考にするのかは教えてくれないらしい。
彼の方から聞いても良かったのだが、受付の前にあまり長居するのも躊躇われるので「どういたしまして……?」と疑問符混じりの返事を残して、その場を立ち去る。
エレベーター待ちの列に並んでしばらくすると