秋の月は日々戯れに


「おはよう」

「わざわざ挨拶の前にため息つく必要あったか?」

「言わずとも察して欲しいもんだねー」


もちろん、ため息の理由なんて、その直前の視線のやり場でなんとなく察しはついているけれど、彼としての言い分は――便利なものを使って何が悪い。


「そう言えば、受付の前通った時、愛美ちゃんに何か聞かれた?」

「何かって、おでんのことか?」


それを聞いてくるということは、同僚も同じ質問をされたようだったが、彼と同僚とで決定的に違うところは、なぜそんな質問をされたのか、その理由を知っているか否かだった。


「なんかね、前途を祝す会を催すらしいよ」


彼の疑問に、同僚はなんてことない調子で答える。

誰の前途を祝す会なのかは言わなかったが、それこそ言われなくても分かる。


「愛美ちゃんは部署が違うけど、関係が深いからってことでメンバーに入ってるんだって。それで今は、お店を選んでくれてる最中なわけ。他の誰に頼むより、愛美ちゃんに頼んだほうがいいでしょってのが、我が部署の総意だから」


他部署の人間に店選びを丸投げとは、素晴らしき我が部署である。
< 352 / 399 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop