秋の月は日々戯れに
「それで、場所はおでん屋なのか?」
確かに寒さが厳しいこの季節は、おでんが食べたくなる季節でもあるが、チョイスが中々に渋い。
それに、おでんと言われて彼の中に浮かんできたのは、コンビニを抜かすと日本料理店か屋台くらいだったので、大人数での集まりに向いているとも思えない。
「チラッと聞いた話によると、おでんの美味しいお店があって、そこの大将が愛美ちゃんの知り合いなんだって。だから、当日はどーんと店を貸し切りにしてくれるらしいの。まあ、酔っ払った男共がどんな乱痴気騒ぎを起こすか分からないからね。知り合いの店でしかも貸し切りだと、気が楽なんじゃない?」
「……なんで確認するようにこっちを見るんだ。俺が酔っ払って乱痴気騒ぎするように見えるのか」
「まあ、あんたは大丈夫でしょうけど」
「他はどうだかね」と聞こえないくらいの小声で呟いた同僚は、腕時計に視線を落とし「おっともうこんな時間」とせかせか歩き出した。
彼も自分の腕時計に視線を落としてから、そのあとを追う。
「それより、あんたまた朝ご飯食べてないでしょ。まさかとは思うけど、昨日の夜から食べてないなんて言うんじゃないでしょうね」