秋の月は日々戯れに
「せんぱーい……!」
聞こえてきた何とも情けない声に彼が顔を上げると、妙にヨレヨレの後輩が近づいてくるのが見えた。
「……あの人……もうほんとあの人……!!」
恨みがましい呟きは誰に対するものなのか、後輩の視線の先を辿ると、そこにはお弁当を広げながら行儀悪くパソコンのキーを叩いている上司がいた。
「あの人、仕事マンな雰囲気出してますけど、さっきまでオレに執拗に絡んできて大変だったんすよ!」
そう言われてみれば最近、上司が後輩に絡んでいるところを、彼もよく目撃するようになった。
その理由なんて一つしかなくて、ひとえに上司が寂しがっているだけなのだけれど、後輩としてはその執拗な絡みが我慢ならないようだった。
「おかげでオレのスーツに煙草の匂いが移っちゃって、この間なんて愛美に、いつから煙草吸い始めたんだって凄まれたんすよ!?」
「まあ、そう言ってやるな。お前がいなくなるのが寂しいんだよ」
一応上司をフォローしておくが「それにしたって……!」と後輩の嘆きは止まらない。
根っからのヘビースモーカーである上司が、煙草の匂いをさせていなかったことなど今まで一度もないので、これはもう諦めるしかないのだが――