秋の月は日々戯れに
聞きながら既に歩き出している後輩に、彼は苦笑気味に答える。
「今日はブラックじゃなくて、ミルクが入ってるやつで頼む。チョイスはお前に任せるから、このパンに合いそうなのを」
ピタッと足を止めて振り返った後輩は「先輩、もしかしてそのパン、さやかちゃんから貰いました?」と問いかける。
その通りだと頷き返せば、後輩が納得したように笑った。
「任せてください!オレ、抜群に相性がいいやつ選んでくるんで」
そう言って後輩は、元気よく駆けていく。
「急がなくていいからな!」とかけた彼の声が届いたかどうかは、定かではない。
「なんだ、またあいつはお前の忠犬なのか?いや、忠犬なのは前からか」
後輩と入れ替わるようにしてやって来た先輩は、持っていたコンビニの袋から出したチョコレートの大袋を開け、さも当たり前のように彼の机の隅に積んでいく。
「忠犬じゃありません、ただの後輩です。それより、せっかく買ってきたのに自分で食べないんですか?」
「自分で食べるのは、別にあるんだよ。お高くていいやつがな」
その情報は別に言わなくてもいいのでは、と思ったが、先輩がニヤリと笑っているところを見ると、あえて口にしたらしいと知れる。