秋の月は日々戯れに
「そう言えば、朝方持ってたやつはもうみんな配っちゃったんですか?」
なんのことかと顔を上げて首を傾げる先輩に、彼が「ほら、ミルクティー味の……」と言いかけたところで、先輩が慌てたようにバッと片手を上げてその先を制した。
今度は彼が首を傾げると、近づいてきた先輩が肩を組んで距離を詰める。
「お前、その情報誰にも漏らしてないだろうな?」
なんだかひどく大げさな問いかけに、彼は訝しげな表情で頷き返す。
途端に、先輩の肩からホッと力が抜けた。
「その情報の重要性をお前は理解してないみたいだけどな、こっちはそれを手に入れるのにかなり苦労してんだ。いいか、誰にも言うなよ。特に、受付の前に不必要に足を止めてデレデレしてるような奴らには絶対にだ」
ミルクティーがそれほど重要な情報とも思えないが、先輩の必死な形相に、彼はとりあえず頷き返す。
先輩はようやく組んでいた肩を離して彼から距離を取ると
「いやあ、お前が話の分かる奴で良かったよ」
嬉しそうに笑って「特別だぞ?」と、チョコレートの山の頂辺に、ポケットから出したものをそっとのせる。
先輩が立ち去ってから、山を崩さないように一番上を手に取って見ると“冬季限定ミルクティー味”の文字が目に飛び込んできた。
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